
その他 2025.12.03
| 優秀賞 |
ア「特に優れているもの」 |
|---|---|
| 入 賞 |
ア「調査、設計、監理の各業務部門で優れているもの」 |
| 優秀賞 |
ア「特に優れているもの」 |
|---|---|
| 入 賞 |
ア「報告書作成、保存図作成の業務が共に優れているもの」 |
優秀賞 ア 重要文化財道後温泉本館神の湯本館ほか7棟保存修理事業
四国、松山市の観光拠点としてシンボル的な建物であり、建設年次が異なる複数棟で構成され、全体として非常に複雑な建物であり、各部の規模や構造形式を整理・理解するだけでも容易ではない。また、松山市の現役の観光温泉施設であるので、工事中も部分営業が必要となり、全体を大きく2区画2期に区分しての工事施工となった。文化財修理事業としては特異な事例であり、安全対策や工程計画の調整が非常に複雑であったと考えられる。また、周囲を道路に囲まれた市街地に立地するので、仮設計画は周辺街路への配慮が必要となり、素屋根設置は夜間工事での施工で実施した。保存修理については、屋根葺替・部分修理ではあるが、近代和風建築として、木造が主体であるが、浴室部はコンクリート造である等、修理工種も多岐にわたり、詳細な調査を実施している。耐震補強についても、各建物が複雑に構成され、各施工場所が狭小であることから、補強材設置や基礎工事は複雑であったといえる。さらに現役温泉施設として設備の全面改修が実施され、特に給湯・排水のための地下ピット設置は上部構造を残しながらの基礎工事となり、難工事であったことが想像できる。上記のような複数工事を同時並行して進める必要があり、工事は松山市営繕発注であるため工事発注や工事監理において各種書類作成業務も多く、予算措置においても、国庫補助事業の保存修理・耐震補強に加え、市単独事業の設備改修工事の二本立てとなり、予算調整や補助金書類作成も複雑となった。その上、観光拠点である温泉施設の早期全面再開を求められ、工期短縮にも応じて竣工させた。報告書では、膨大な調査内容を整理して期限内に刊行した。事業全般として工事監理から報告書まで問題なく終わらせたことは、非常に高く評価できる。
入賞 ア 重要文化財常称寺本堂ほか2棟保存修理事業
広島県尾道市に所在する時宗寺院であり、本堂、観音堂は室町後期の中世建築である。3棟とも破損が甚大であり解体修理となり、耐震補強も実施した。解体修理であるため本堂をはじめ各棟とも細部までにわたる緻密かつ丁寧な調査が行われ、その調査結果に基づき、修理が実施されている。さらに、建築年代の推定根拠としての放射性炭素年代調査、中世建築部材強度性能を確認するための古材の材料試験等、科学的調査、実験等に意欲的に取り組んでいる。また、敷地が狭隘で、出入口部に山陽本線、国道2号が通るような敷地条件の中、仮設計画や資材搬出入等に制約があったと考えられるが、特に大きな問題もなく工事運営を行い、無事に工事完了した。なお、本堂の現状修理の方針については、工事主任としては遺憾の面もあったようであるが、検討経緯や調査結果に基づく詳細な当初復原考察を報告書に記録し、報告書、保存図とも期限内に完了させ、事業全体の完成度が高く評価できる。
入賞 ア 国宝旧開智学校校舎耐震対策及び防災施設整備事業
明治初期建築の擬洋風学校建築として国宝指定を受けた建物であり、既に解体移築(根本修理)済であり、今回は耐震対策工事、防災施設改修工事を行った。耐震補強については、塔屋部分の耐震評価や補強方法の再検討が行われた。施工においては、不整形な天井梁を貫通してタイロッドを固定する際、エポキシ樹脂系モルタルを用いて飼い物にするなどの工夫が見られた。さらに古材の再利用に関する調査も行い、これらの成果は報告書に記載されている。また、工事は公共営繕発注として、分割発注され、非駐在ながら、元請4社の監理を同時にこなし、それぞれの工事の現場調整などが課せられた。補強工事や補強材取付のための保存修理工事、防災工事と3種の判断が求められる工事を一人で担当し、工期内で工事完了し、期限内に報告書も刊行出来たことは、業務実施の上で高く評価できる。
なお、今回審査の中で、構造設計課の技術主任が作る耐震補強工事の報告書については、構造協力事務所による原稿を整理するだけでなく、補強方針・補強内容の選択の経緯等、考え方の説明解説も掲載するなど、耐震補強工事の報告書の模範となる報告書を執筆することに期待し、今回は報告書部門での顕彰を見送った。
入賞 ア 重要文化財豊橋ハリストス正教会聖使徒福音者馬太聖堂保存修理事業
大正2年建築の木造教会建築であり、これまで数回の維持管理修理が行われ、今回は重要文化財指定後のはじめての保存修理であり、屋根葺替・部分修理、耐震補強が実施された。本務駐在現場を担当している工事主任が、工事途中から担当し、兼務業務として非駐在監理にて実施した。部分解体という制約がある中で、洋風建築としての各工種について、屋根板金や木目塗、イコン等の技法調査等、詳細な調査を実施している。工事実施仕様については、報告書において、写真、挿図を用いて詳細な説明を行い、耐震補強を含めて、全体としてコンパクトにまとめた報告書となった。兼務の単独業務として、耐震補強を含めた保存修理工事を工期内に完了させ、報告書についても期限内に刊行出来たことが高く評価できる。
なお、推薦のあった報告書部門では、報告書構成で実施仕様が先行記載され、後に調査事項が来ており、全体として調査内容が修理工事へどのように反映されたかが不明で、破損原因に対し、修理でどの様に対処したかが読み取れなかった。また、一部挿図の不鮮明さや写真が全体に暗い点が完成度を欠いていたことで報告書部門での顕彰を見送った。
優秀賞 ア 重要文化財常称寺本堂ほか2棟保存修理工事報告書
規模形式が異なる建物別にそれぞれ詳細な調査項目を設定し、緻密に行われた調査内容を挿図や写真等を巧みに用いて丁寧によくまとめている。当初形式や後世の改変等は、写真に書き込みを入れ、痕跡表示を徹底し、詳細図を加えながら丁寧に説明している。調査成果としては、各部の構法・技法、継手仕口等、可能な限り漏れなく掲載されている。写真は、本文挿入を含めて全体としてレイアウトが工夫され、鮮明なものが的確に用いられ、必要に応じてカラー写真も利用して理解しやすいものとなっている。細部に関する挿図はきれいに作図され、バランスも良く、表組の扱いも丁寧である。
さらに全体の目次構成として、「修理事業概要」、「各建物の調査」、「発掘調査」、「耐震診断及び補強設計」を経て最後に「施工」という流れが一連の「修理事業の内容」を理解しやすい構成であることも重ねて評価できる。
本堂の当初復原検討についても、詳細な痕跡調査等に基づき考察が行われ、当初復原推定図を作成する等、今後の修理の際の参考資料となる。保存図についても詳細図を含めて、丁寧に良く描かれている。
以上により、構成から本文、写真、図版、保存図を含めて全体の完成度がきわめて高く、本格寺院建築の解体修理の修理工事報告書として、非常に高く評価できる。
優秀賞 イ 重要文化財道後温泉本館神の湯本館ほか7棟保存修理工事報告書
工事監理においても高く評価され、報告書についても、複数建物が複雑に構成され、修理方針により部分解体のため調査個所や範囲等に制約がある中で、調査事項は膨大なものとなり、建物別に章立てされ、それぞれの細部の痕跡及び改変個所の仕様・工法等を可能な限り調査し、修理履歴と照合しながら、瓦の詳細図、継手仕口、建具等の調査結果をカラー写真、挿図、表組を工夫してまとめており、将来の根本修理を見据えた参考記録として活用できる精度となっている。実施仕様については、共通する各仕様ごとに整理して、同じく写真や詳細図等の挿図、表組を的確に利用してわかりやすく説明している。
報告書としては、基本的にはオーソドックスなスタイルではあるが、耐震補強を含めた実施仕様、各建物の形式や技法の調査事項を的確にまとめており、全体として質の高い報告書として高く評価できる。
入賞 ア 重要文化財専修寺楼門保存修理工事報告書
建物は一間一戸の楼門として規模は小さいが、解体修理として、屋根の現状変更、耐震補強も行い、史跡地内における各種調整が必要であった。報告書については調査項目が豊富であり、各種調査事項は形式・平面寸法・木割等を挿図や写真を利用して整理し、類例とも比較しながら丁寧に考察しており、木割模式図、蟇股図、部材墨書等は工夫がみられる。全体の構成としては、修理内容、実施仕様が先行しているので、調査結果の反映がやや分かりにくいとの意見もあった。ただし、工事主任としてはじめての駐在現場であり、保存図も一人で作成して良く描けている。報告書も期限内に刊行し、全体に内容が緻密であり、充実度、完成度が高く評価できる。